大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(行コ)95号 判決 1982年2月08日

東京都杉並区高円寺北一丁目九番二号

控訴人(附帯被控訴人)大河原幸作

同所同番地

控訴人

大河原貞子

右両名訴訟代理人弁護士

萩原平

山本政敏

横山弘美

寺嶋由子

林豊太郎

東京都杉並区成田東四丁目一五番八号

被控訴人(附帯控訴人)杉並税務署長

深澤小太郎

東京法務局訟務部

右指定代理人検事

平賀俊明

訟務専門官 新村雄治

東京国税局直税部国税訟務官室

国税訟務官 鴨下英主

大蔵事務官 一杉直

山本高志

右当事者間の所得税更正処分等取消控訴、同附帯控訴各事件について、当裁判所は、昭和五六年一〇月二一日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

一  控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

二  附帯控訴に基づき原判決主文第一項及び第二項中附帯被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

附帯控訴人が附帯被控訴人の昭和三四年分所得税につき、昭和三八年三月七日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定(昭和三八年三月一四日付再更正処分及び昭和四七年一〇月三一日付再々更正処分により一部減額された後のもの)のうち総所得金額五四六万三四〇八円を基礎として算出される額を超える部分を取消す。

附帯被控訴人のその余の請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人らの、附帯控訴費用は附帯被控訴人の、各負担とする。

事実

控訴事件につき、控訴人ら代理人「以下「控訴代理人」という)は「原判決を次のとおり変更する。被控訴人が、控訴人大河原幸作の昭和三四年分所得税につき、昭和三八年三月七日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定(昭和三八年三月一四日付再更正処分及び昭和四七年一月三一日付再々更正処分により一部減額された後のもの)並びに昭和三五年分及び昭和三六年分の各所得税につき、昭和三八年三月一三日付でした各更正処分及び過少申告加算税賦課決定(昭和三五年分については昭和三九年七月三一日付審査裁決、昭和四七年一〇月三一日付更正処分及び昭和五一年五月三一日付再々更正処分により、昭和三六年分については昭和三九年七月三一日付審査裁決、昭和四七年一〇月三一日付再更正処分によりそれぞれ一部減額された後のもの)をいずれも取消す。被控訴人が、控訴人大河原貞子の昭和三四年分所得税につき、昭和三八年三月一三日付でした更正処分及び無申告加算税賦課決定(昭和三九年七月三一日付審査裁決、昭和四七年一〇月三一日付再更正処分により一部減額された後のもの)並びに昭和三五年分及び昭和三六年分の各所得税につき、昭和三八年三月一三日付でした各決定処分及び無申告加算税賦課決定(昭和三五年分については昭和三九年七月三一日付審査裁決、昭和四七年一〇月三一日付更正処分及び昭和五一年五月三一日付再更正処分により昭和三六年分については昭和三九年七月三一日付審査裁決、昭和四七年一〇月三一日付更正処分によりそれぞれ一部減額された後のもの)をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人(以下被控訴代理人」という)は、「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

附帯控訴事件につき、附帯控訴代理人は、主文第二項と同旨の判決並びに、「控訴費用は第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯被控訴代理人は、附帯控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり付加し、改めるほか、原判決事実摘示(原判決三枚目-記録一〇五丁-裏八行目から原判決四九枚目-記録一五一丁-表九行目まで。但し、原判決八枚目-記録一一〇丁-表四行目「名義換」とあるを「名義書換」と、原判決一八枚目-記録一二〇丁-裏三行目「額面」とあるを「金額」とそれぞれ改め、原判決四八枚目-記録一五〇丁-表九行目「欠番」の後に「、甲第一〇号証の一は原本に代えて写」を加え、原判決四九枚目-記録一五一丁-表二行目「欠番」の後に、「、乙第一四ないし第一八、第二五ないし第四〇、第七八ないし第八二号証はいずれも原本に代えて写」を加える。添付の「表一ないし四」を含む。)と同一であるからこれを引用する。

一  控訴人(附帯被控訴人-以下「控訴人」という)幸作、控訴人貞子両名(以下両名を「控訴人ら」という)代理人(以下「控訴代理人」という)は次のように述べた。

1  昭和三五年分の総所得金額中、一時所得金額についての控訴人らの主張(原判決四二枚目-記録一四四丁-表六行目から原判決四五枚目-記録一四七丁-表七行目、及び原判決四五枚目-記録一四七丁-裏二・三行目)追加

「有限会社大和不動産(以下「大和不動産」という)は、昭和三五年六月三日三井由春ほか四名から、静岡地方裁判所沼津支部に対し、解散命令を申立てられた。右申立の理由は、商法五八条一項二号所定の「会社が正当ノ理由ナクシテ其ノ成立後一年内ニ開業ヲ為サナイ」場合に該ること、及び会社の設立が相続税、所得税の逋脱のためになされたものであり、公益を維持するためその存立を許し得ないというにあった。大和不動産は、右事件の処理を弁護士木暮勝利(以下「木暮弁護士」という)に依頼し、木暮弁護士はその処理に当った。同弁護士は、右事件を早期に収拾するため、大和不動産の所有とされていた東京都杉並区高円寺所在の宅地六一四〇・四七坪(さきに引用した原判決事実摘示第七の土地、以下「本件土地」という)の所有権を、控訴人らに移転することを考え、控訴人幸作に対し、本件土地の売買契約を合意解除する形をとって、大和不動産の本件土地の所有権を控訴人らに移転するよう求めた。控訴人幸作は、これに対し、所有権の移転に伴い譲渡所得税等の税金が課せられることを懸念して反対したが、木暮弁護士は、合意解除による所有権移転には課税の余地はないと説明し、合意解除により本件土地の所有権を移転することが最良の方法であるとして、控訴人幸作及び大和不動産の代表取締役であった市島徹太郎に強くこれを勤めた。そこで、控訴人らは、法律専門家である木暮弁護士の判断を信用し、同弁護士の勧めた手順に従って、昭和三五年一〇月六日、大和不動産との間で、本件土地の売買契約を解除する旨の合意をした。しかるに、被控訴人は、控訴人らに対し昭和三七年法律第六七号による改正前の旧所得税法六七条一項により合意解除による行為計算を否認し、右合意解除による本件土地の所有権移転につき、本件土地の時価四六〇五万三五二五円から二八〇万五一〇七円を控除した四三二四万八四一八円の贈与であるとし、これを被控訴人らの一時所得であると認めて、課税するに至った。かかる事態は、控訴人の全く予想しなかったことであって、右解除の合意は、控訴人幸作において、意思表示の最も重要な部分につき錯誤があり無効というべきである。

2  二2の被控訴人主張の事実はすべて(計算関係を含む)認め

二  被控訴代理人は次のように述べた。

1  前記一1において控訴人らが主張する解除の合意は、大河原家の財産であった本件土地が、大和不動産の清算手段によって第三者の手に渡ることを危惧した控訴人らが、その善後策として、木暮弁護士の勧めに従ってなしたもので、その動機は明確であり、何ら要素の錯誤は存在しない。

2  昭和三四年分の総所得金額に関する各控訴人の主張の訂正

(一)  原判決五枚目-記録一〇七丁-裏四行目「五四六万八四二六円」を「五四六万三四〇円」と、同七行目「三九万九五一二円」を「四二万六八一二円」と、同九行目「四三八万一九九六円」を「四三四万九六七八円」と、同一〇行目「五四六万八四二六円」を「五四六万三四〇八円」と、原判決六枚目-記録一〇八丁-表二行目「三九万九五一二円」を「四二万六八一二円」と、原判決八枚目-記録一一〇丁-裏五行目「四三八万一九九六円」を「四三四万九六七八円」とそれぞれ改め、原判決九枚目-記録一一一丁-表二行目から同八行目「すなわち、」までを削り、同行「原告幸作は、」から原判決一〇枚目-記録一一二丁-表一〇行目までを削る。

(二)  原判決七枚目-記録一〇九丁-表一一行目の末尾に次のように加える。

「控訴人幸作は、昭和三一年一二月一八日上野菊雄の子上野智章から杉並区高円寺四丁目五八番の三の宅地六五・二五坪(以下「第二の土地」という。)を買い受けたが、右土地のうち四〇坪については坂田幸太郎が月二〇〇〇円で、また、うち二五坪については中村とみ子が月一二五〇円で貸借していたのであるから、同控訴人は右土地の所有権を取得すると同時に賃貸人の地位をも承継したものといわなければならない。してみれば、右土地の地代として昭和三四年中に合計三万九〇〇〇円を収受したものというべく、右収入は、不動産所得を構成するものというべきである。

控訴人幸作は、後記のとおり、右土地は、同控訴人の三男大河原正紀(以下、「正紀」という。)の所有に属するものである旨主張するが、正紀への所有権移転登記は本件更正処分の通知書が控訴人幸作に送達された日の翌日である昭和三八年三月八日に急遽なされたものであって、右登記は、実体に符号したものとはいいがたく、当時一六歳に過ぎない右正紀(昭和一五年九月一五日生)に右土地を買い受ける資金があるとは到底考えられないことであり、現に右土地の地代は控訴人幸作名義をもつて受領されているのであるから、同控訴人の右主張は失当である。

以上の点は、昭和三五年分及び昭和三六年分についてもいえることである。

(三)  原判決一一枚目-記録一一三丁-表五行目から同裏一〇行目までを次のとおり改める。

「控訴人幸作は、昭和三四年中に、東日本開発株式会社(以下「東日本開発」という。)に対する貸金一五〇万円につき、その元本の弁済及び利息の支払いを受けなかったのであるから、課税の対象となるべき利息収入は、利息制限法所定の制限利率による九万二四六五円であり、同収入にかかる所得金額は、所得標準率〇・八七五を乗じた八万〇九〇六円である。」

(四)  原判決一五枚目-記録一一七丁-表四行目「一三八六万七六一〇円」を「一三八六万〇九四六円」と、同七行目「六五万〇二四九円」を「六七万七五四九円」と、同九行目「一七九万九二七一円」を「一七六万五三〇七円」と、同一一行目「一三八六万七六一〇円」を「一三八六万〇九四六円」と、原判決一五枚目-記録一一七丁-裏三行目「六五万〇二四九円」を「六七万七五四九円」と、原判決一六枚目-記録一一八丁-裏九行目「一七九万九九二七一円」を「一七六万五三〇七円」と、同末行から原判決一七枚目-記録一一九丁-表初行「五三万一二〇八円」を「五三万一三九二円」とそれぞれ改め、原判決一七枚目-記録一一九丁-表六行目及び同一〇行目から同一一行目「しても、」までを削る。

(五)  原判決一六枚目-記録一一八丁-表九行目の末尾に次のように加える。

「控訴人幸作の賃金台帳の記載及び原審における同控訴人の供述により上野菊雄に対する貸付利子収入三万九〇〇〇円を算定した。この三万九〇〇〇円は同控訴人の不動産所得を構成するものというべきである。その理由は、昭和三四年分と同様である。

(六)  原判決一七枚目-記録一一九丁-裏三行目から原判決二一枚目-記録一二三丁-裏五行目を次のとおり改める。

「東日本開発は、昭和三四年中には借入金一五〇万円の返済をしなかったので、昭和三五年一月一日現在の元本額は一五〇万円であったところ、東日本開発は、昭和三五年三月一三日控訴人幸作に対して、同会社所有の町田市野津田町字本村一七二八番の一所在の山林六畝一一歩及び同所一七七〇番の三所在の山林六歩を右貸付金一五〇万円についての、昭和三五年一月一日から同年三月三一日までの利息一三万九〇〇〇円、同年四月一日から同年六月三〇日までの利息一六万一〇〇〇円及び貸付金元本のうち六五万一四〇〇円の代物弁済として譲渡し(右土地は一〇五万一四〇〇円と評価して譲渡されたが、うち一〇万円は東日本開発が現金で受領したので、残額が代物弁済となった。)、更に、同年五月三〇日同社所有の町田市野津田町字木村一七七一番の一所在の山林五畝一一歩を利息二〇万一四〇〇円及び元本一一万八六〇〇円の代物弁済として譲渡した。

したがって、控訴人幸作は利息として五〇万一四〇〇円(一三万九〇〇〇円、一六万一〇〇〇円、二〇万一四〇〇円の合計額)を現実に収受した以上、利息制限法による制限を超える部分をも含めてその全額が課税の対象となる。

ところで、右五〇万一四〇〇円のうち、決定の制限利率を超える部分は、私法上は既に発生している未払利息及び元本に充当されるものであるから、これをまず、昭和三四年分の前記未払利息九万二四六五円に充当し、次いで元本に充当し、また、前記の元本への弁済をも考慮して、昭和三五年六月三〇日現在の残存元本額を算出すると別紙該当欄記載のとおり三九万八六二六円となる。そして、その後弁済はなされていないのであるから、右元本残額三九万八六二六円に対する昭和三五年七月一日から同年一二月三一日までの法定利率による未収利息は二万九九九二円となる。

右二万九九九二円と、利息として収受した前記五〇万一四〇〇円との合計五三万一三九二円が昭和三五年分の東日本開発に対する長期貸付利息収入である。」

(六)  原判決二九枚目-記録一三一丁-表四行目「四九〇万一九〇六円」を「四八九万三九六四円」と、同九行目「一五三万四四二九円」を「一五六万一七二九円」と、同末行「六九万七六一五円」を「六六万二三七三円」と、同裏二行目「四九〇万一九〇六円」を「四八九万三九六四円」と、同八行目「一五三万四四二九円」を「一五六万一七二九円」と、同九行目「一一七万一〇五四円」を「一一九万八三五四円」と改め、原判決三〇枚目-記録一三二丁-表初行「不動産賃料」の後に「のうち」を加える。

(七)  原判決三〇枚目-記録一三二丁-裏三行目の後に行を改めて次のように加える。

「控訴人幸作の賃料台帳の記載及び原審における同控訴人の供述により、上野菊雄に対する貸付利子収入四万〇六〇〇円を算定した。そのうち三万九〇〇〇円は不動産所得を構成するものというべきである。

その理由は、昭和三四年分と同様である。

原判決三一枚目-記録一三三丁-裏九行目及び原判決三二枚目-記録一三四丁-表二行目から同三行目「としても、」までを削り、原判決三一枚目-記録一三三丁-裏一〇行目から原判決三二枚目-記録-一三四丁-表五行目までを削る。

(八)  原判決三一枚目-記録一三三丁-表一〇行目「六九万七六一五円」を「六六万二三七三円」と改める。

(九)  原判決三二枚目-記録一三四丁-表一〇・一一行目、同裏五・六行目「三九万六四六九円」を「三九万八六二六円」と、同七行目「五万九四七〇円」を「五万九七九三円」とそれぞれ改める。

(十)  原判決添付「表三」を別紙一のように、原判決添付「表四」を別紙二のように改める。

三  証拠として、控訴代理人は、当審における証人木暮勝利、控訴人幸作本人の各供述を援用し、乙第九六ないし第九八号証につき、原本の存在、成立を認めると述べ、被控訴代理人は、乙第九六ないし第九八号証(いずれも原本に代えて写)を提出した。

理由

一  当裁判所は、控訴人らの本訴請求は、「控訴人幸作の昭和三四年分所得税につき、被控訴人が昭和三八年三月七日付でした更正処分処び過少申告加算税賦課決定(再更正処分及び再々更正処分後のもの)のうち総所得金額五四六万三四〇八円を基礎として算出される額を超える部分を取消す限度において正当であり、その余はいずれも失当として棄却すべきであるとするものであって、その事実認定及びこれに伴う判断は、次のとおり付加し、改めるほか、原判決理由説示(原判決五〇枚目-記録一五二丁-表二行目から原判決八二枚目-記録一八四丁-表八行目「棄却し、」まで。ただし、右「棄却し、」とあるを「棄却すべきである。」と改める。)と同一であるから、これを引用する。

1  事実摘示二2の被控訴人主張事実は、すべて当事者間に争いがない。

2  原判決六八枚目-記録一七〇丁-裏二行目「甲第一〇号証の一、」の後に「乙第九六号証、」を加え、同六・七行目「証人木暮勝利(一部)」を「証人木暮勝利(原審及び当審の各一部)」と同七行目「同安西敏雄」とあるのを「同安西敏雄(原審一部)」と、同八行目「原告幸作本人尋問の結果(一部)」を「控訴人幸作本人尋問の結果(原審及び当審の各一部)」とそれぞれ改め、原判決七二枚目-記録一七四丁-表九行目「本人尋問の結果」の後及び同裏八行目「木暮勝利の証言」の後に、それぞれ「(原審)」を加え、同九行目「措信しない。」を「採用しない。」と改め、その後に「当審における証人木暮勝利、同控訴人幸作本人の各供述中、以上の認定に反する部分は採用できない。」を加える。

3  事実摘示一1の控訴人らの主張(錯誤)について判断する。

昭和三五年六月三日本件土地の賃借人らから、静岡地方裁判所沼津支部に対し、大和不動産を相手方として、商法五八条一項二号に基づいて、解散命令の申立てがなされたこと、この申立に対し、控訴人らが木暮弁護士に委任して抗争したが解散命令を受けるのは必至の状態になったこと、その結果清算手続により、本件土地が第三者の手に渡ってしまうおそれが生じたこと、これを回避するため、木暮弁護士から控訴人らに対し、本件土地について締結されてあった大和不動産と控訴人らの被相続人大河原房次郎との間の売買契約を合意解除し、本件不動産の所有権を控訴人らに帰せしめるよう助言があったこと、これに対し控訴人幸作は、合意解除の方法をとったとしても、よって生ずる所有権移転について課税処分を受けることを懸念したが、木暮弁護士からそのおそれはないとの意見が示された結果合意解除するに至ったことの各事実は、先に引用した原判決の理由説示されたとおり(原判決六九枚目-記録一七一丁-裏六行目から原判決七一枚目-記録一七三丁-表初行まで)である。

右事実関係のもとにおいて、控訴人らは大和不動産の所有とされていた本件不動産の所有権を控訴人らに帰属させるため合意解除の方法をとったのであり、その結果本件不動産の所有権を取得するに至ったのであって、その法律行為の意図した法律効果との間には何ら齟齬はみられない。もっとも、所有権移転をなすか否かを決し、或はその方法を選択するに当って、税負担の有無、軽重を考慮することは一般であり、控訴人らがその点を重視し、検討したうえで合意解除をなしたものであることは前叙のとおりである。しかし、税負担の有無、軽重は、当該法律行為及びよって生じた法律効果の実体に則して、法律行為者の意図に拘束されることなく決せられる事項であるから、税負担の有無、軽重について当事者に判断の誤りがあったからといって、当該法律行為の重要な部分について誤りがあったということはできない。

よって、右主張は理由がない。

4  原判決八二枚目-記録一八四丁-表三・四行目「五四六万一六〇一円」を「五四六万三四〇八円」と改める。

二  以上のとおりであるから、被控訴人が控訴人幸作の昭和三四年分所得税につき、昭和三八年三月七日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定(再更正処分及び再々更正処分により一部減額後のもの)のうち、総所得金額五四六万三四〇八円を基礎として算出される額を超える部分について取消すべきであり、これに反する原判決主文第一項は不当であるからその変更を求める被控訴人の附帯控訴は理由があり、原判決中その余の部分は相当であって、右部分に対する控訴人らの控訴は理由がない。

よって、民訴法三八四条に従い控訴人らの控訴を棄却し、被控訴人の附帯控訴に基づいて、同法三八六条に従い、原判決主文第一項及び第二項中控訴人幸作に関する部分を主文第二項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、同法九五条、九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部秀信 裁判官 村岡二郎 裁判官 川上正俊)

別紙 一

<省略>

昭和35年は366日である。

別紙 二

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例